ミカドヤな日常

アートディレクター/グラフィックデザイナーの夫とイラストレーターの妻の日常です。ミカドヤのHPはコチラ:design.mikadoya.jp

商業デザイナーの意義。

佐賀県武雄市の一般社団法人おもやい様より防災ブックのご依頼をいただきました。
武雄市は地形と有明海の干満差により氾濫しやすく、とくに2019年・2021年の2度に渡った線状降水帯による大雨の被害で2000世帯の方々が浸水被害を受けられた地域。
そんな方々をサポートしようと地元・県内外メンバーを中心に設立されたのがおもやいさんです。(※「おもやい」の言葉は佐賀では「共有する」という意味。)

いざというときはどんな人でもパニックになるものです。ましてや家の中に大量の土砂が入ってきたら尚更です。
緊急時はもちろん、平時の心構えとしても常備していて欲しいということで、制作するにあたり大切にしたのは、保管したくなるもの、読み進めたくなるもの、怖く煽りすぎず、ホッコリしながら子供からお年寄りまで防災を分かりやすく身近に感じてもらえるもの、でした。

防災を身近に分かりやすく・・


私たちが提案したのは一本の傘。
実は傘はとても身近にある防災グッズともいえます。
冷たい雨から身を守り、濡れている人を隣に入れて、
困っている人がいたら渡すこともできる。

 

「これぞ、『おもやい傘』です!」と自信満々に提案する妻の横で、

「無理ぃ〜しぃ〜てぇ〜飲ん〜じゃ〜」と、親愛なる幸っちゃんが毎回頭を駆け巡っていた私。

 

都道府県には様々な防災ブックが発行され、打ち合わせ中も沢山の資料を見ました。どの県も趣向を凝らしていましたが、その中で「こういうのだけは作りたくない」と出された一冊の防災ブック。数年前震災が起こったある県のものでしたが、デザインされすぎていて、文字は小さすぎて読めないわ、色や文字組みは奇抜すぎるわ、被災した家屋写真はカッコ良く処理されているわ、まぁデザイナーのエゴというべきものでした。「まぁ、若者目線で作ったんでしょうねぇ。。苦」と少なからず私もフォローしましたが、その時のスタッフさんの一言、「人が亡くなられているのにですね....」にハッとさせられました。

 

私たちの仕事はなんなんだろう?と本当に考えました。自分がデザインしたことでもしかしたら一人の命が救えるかもしれない。とても大事な箇所を「見えない」ということでチェックできない高齢者がいるかもしれない。普段の仕事はもちろん、とくに生死に関わるものは繊細に繊細に取り組まないといけません。まずは誰にでも『防災』を意識させることが大前提であり、捨てられないことはもちろん、読めないなんて言語道断です。「よくしたい」という想いのもと集まった助成金、寄付金で自分の好き勝手作るのは商業デザイナーとはいえません。
それでも『作品』を作りたい人は自腹切って個展でもやればいいんです。

この本の案内人として設定したキャラクター、『スイっち』と『ミーズ』。
ページ内を縦横無尽に動き回ってくれます。

 

 


ご依頼をいただいた時からずっと頭の中にあったことがあります。
2017年の九州北部豪雨災害時、クリエイターたちで「デザインで被災地をなんとかしよう」という動きがありました。もちろんそれも素晴らしい考えですが、今被災されている人たちはデザインよりも単純に人手が一番必要なのでは?とそのまま現場に単身向かいました。

私が配属されたところはまだ一般参加受付を始めたばかりの断水中の梨農家さん。自衛隊が先導する中を進むにつれ、ご自宅の光景に目を覆いたくなりました。粘土質の土砂がとても重く、バケツに入れても入れてもキリがなく、飾られているご先祖たちの笑顔の写真と現状の悲惨さに何とも言えない気持ちになりました。
完了後、作業車に乗り込む私たちを見えなくなるまで頭を下げて見送ってくださったご家族。「畑はダメになったけど、命があるだけよかったと思わなぁ。」と、自分たちが一番大変な中、神妙な顔をした私たち一人一人に笑顔で感謝を述べられたあの姿が今でも忘れられません。

 

しっかり見やすく分かりやすく、

基本の防災グッズを紹介するだけでなく、備えるものを一つずつチェックできるページにしたり、

誰でも気軽にできるボランティアへの参加を楽しみながら理解してもらえるページにしたり、

おもやいスタッフの経験値には到底及びませんが、あの時のご家族のことを思い出しながら、実際に被災地で見てきたもの、体験したことを私もこの32ページに込めました。

 



「被災した人たちの生の声を入れたいです!私インタビューしてきますから!」
「泥臭く、地元目線で作りたいです!」
スタッフさんの言葉ひとつひとつが(もう二度とあんな思いをして欲しくない)という優しさに溢れ、こういう方々に出会えたご縁に本当に感謝しました。(バンブーさき子、ありがとう!)

まずできることから少しずつ始めながら、いつ起こるかもしれない災害時、この本が人に寄り添い、励ましになるのであれば本当に嬉しいです。

 

今年の台風被害の際も宮崎県延岡市まで飛ばれたおもやいさん。
全国各地で困っている人のために尽力されているおもやいさんを、今度は私たちがサポートできればと考えております。

 

一般社団法人おもやい
住所:佐賀県武雄市北方町大字志久1931-6
TEL・FAX:0954-33-0444
詳しいHPはコチラです。