ミカドヤな日常

アートディレクター/グラフィックデザイナーの夫とイラストレーターの妻の日常です。ミカドヤのHPはコチラ:design.mikadoya.jp

その男、東本三郎。

突然新しい家にお手紙が届きました。

今回、引っ越しに当たって様々な人にお知らせDMを送っていたのですが、

どうやらそのお返しのようでした。

送り主は「東本三郎」。東京の親父、尊敬する方です。



思い返せば、「もっとデザインを、広告を知りたい」と東京修行に出たのは約10年前。

運良く、銀座に事務所を構える制作プロダクションに入ることができました。

そこで、まずは先輩方の顔と名前と席を覚えるためと、コミュニケーションづくりも兼ねて

一人一人に声をおかけしながら、自分なりの「座席表」を作っていたところでした。

「ちなみに社長室は何処ですか?」と聞いたところ、

「さっきからチョロチョロうるせ〜な。ウチには社長室なんてね〜よ、

あるのは『東本三郎室』だけだよ。」と一喝されたのでした。



『東本三郎室』。。。

先輩の指差す先のその部屋に、おそるおそる近づく。

思いっきり開放してあるそのドアの向こうには、

デカすぎる「高倉健」さんのポスターが、随分こちらを睨んでおりました。

そして、次に見えたのはこれまたおそらくデカい筆で書いたのでしょう、

縦2メートルほどの半紙に殴り書きのように書いてある言葉。

「天使のように大胆に。悪魔のように繊細に。」



その男、東本三郎。

広告業界はもちろん、様々な分野の人たちから「マムシの東本」と恐れられている人でした。

初めてご挨拶した時、「なかなかいいガタイしてるじゃねえか」とボディフック。

60歳にして毎朝自宅ジムのサンドバック相手に汗を流すという、そのパンチの重いこと。重いこと。

タクシーに乗り「ドチラまで?」と聞かれたら、「行け!」と前を指差す豪快さ。

いきなり入店したお店で「ご予約のほうは?」と聞かれ、「東本だ。」と答える度胸。

広告の神様とも言われるクリエイターの方々と「兄弟」で呼び合える背中。

何よりも、その背中にある無数の刀傷。

・・・エピソードには事欠かない人でした。

そして、それと同じくらい繊細なエピソードもお持ちの、人間臭い人です。



私が入社してまもなく、社長を引退され、

「俺は今度は映画を作る!」と言ったっきり、会社と広告界から少し距離を置かれてました。

自宅では、自分の生い立ちや経験を元に執筆活動中で、

映画制作に全精力を注がれていました。

そして、東本会長のもと、一流のスタッフを配したその映画は完成。(←なんと監督はあの中野裕之氏)

「俺はこれでカンヌを穫るからみていろ!」と本気とも冗談とも思えないようなことを

当時はよくおっしゃられていました。

そして次の年に来た知らせは、「第59回カンヌ国際映画祭 ヤング批評家賞受賞」のお知らせでした。

有言実行・・・本当に受賞しちゃうんですね。。



最後に。

東本会長、私は今も「天使のように大胆に、悪魔のように繊細に」デザインできていますでしょうか?

その男、「東本三郎」。東京の親父、尊敬する方です。